私の場所




私はいつでも孤独だった・・・



「悪魔の子」と言われて、学校でも友人が作れず、ずっと一人だった・・・



唯一私が心を開ける相手・・・妹の姫ちゃん・・・



幼いころから天涯孤独の身であった私たちは、二人で生きていかなければならなかった・・・



1.


私が生まれたのは、世界の中にぽつりと存在する小さな島、日本。
私はその日本で生まれ育った。
お父さんは神社の住職。いわゆる神主という人です。
お母さんは代々、「魔法」の素質を持つ血統で、魔導師でした。
このような特殊な環境の下で生まれた私は、巫女であり、魔導師として育てられました。
もともと家はそんなに裕福なほうじゃなかったし、どちらも科学では証明できないような職なので、
一般世間で目立つようなことはできなかったので、あまり堂々とお日様の下を歩くことはできませんでした。
家族以外で会う人といったら、仕事を頼みに家に来る人たちばかり。
しかもお父さんはかなり高名な神主で、お母さんはその道では第一人者といわれてたほどの魔導師で、
お父さんたちの素性を知る数少ない人たちがたまにくるぐらいだったのです。


お父さんたちはお仕事で忙しくて、友人と呼べるような人もいなくて、そう考えれば独りの毎日だったかもしれません。
お友達といえば、大自然で暮らしている動物たちでしょうか・・・
ここ星山家は山の中にあって、周りは全部が大自然といっても差し支えないでしょう。
そして動物たちと触れ合うことによって、いつのまにか多少の意思疎通もできるようになってました。
その中でもリスの加奈さんとクマの平蔵さん。この二人は特に私に優しくしてくれました。
このお二方の家系は星山家とかなり昔からの縁があって、加奈さんのお父さんは、霊感がとても強く、
お父さんのお師匠様だったと聞いています。加奈さんもかなりの霊感の持ち主で、
私の霊感能力は加奈さんから教えてもらったといってもいいでしょう。
平蔵さんのお父さんはものすごく強いです。パンチ一発で木をめり倒してしまうくらいです。
平蔵さん一家は代々星山家のボディーガード的役割をしていて、とても頼りになります。



ある日のことでした。
『澪ちゃん、お父さんたちお仕事で寂しくないの?』
加奈さんは私にひとつの質問をしました。
「・・・おとうさんたちはおしごとでいそがしいから・・・さみしいといったらそうだけど・・・
わたしはかなさんやへいぞうさんがいるからだいじょうぶ・・・」
『・・・そう』
加奈さんはどことなく苦笑まじりのため息をします。
『なんでも親御さんたちは新しく生まれた子の世話でいそがしいんだろ?』
平蔵さんが横からそういいました。
・・そう、最近私に新しい家族ができたのです。
3歳違いの妹、姫子ちゃんが生まれました。
でもお父さんとお母さんは仕事のほうもあるので、姫ちゃんの世話だけで手一杯でした。
事実、私は一人の時間が多くなったのでした。
『いくら忙しいからって、3歳の澪をそのまま放置しておくのもどうかと俺は思うんだがなぁ』
御年人間年齢換算で30歳の平蔵さん。人間とは時の進み方が違うので、今では立派な大人だったりします。
見た目は怖いけど、とても優しいです。
『うん・・・澪ちゃんがかわいそうだと思う・・・』
お姉さん的存在の加奈さん。人間年齢換算で18歳くらいです。とても頼りになります。
「・・わたしはだいじょうぶ・・・」
とりあえずそう言っておきました。加奈さんや平蔵さんに余計な心配をかけたくなかったからです。
しばらくの間、重苦しい空気が続きます。二人とも真剣な顔つきで、
それでいてあたかも何かを必死に考えていたようでした。
どのくらいの時間がたったのでしょうか、平蔵さんが重い口を空けてこういいました。
『・・・澪、なにがあっても俺は澪の味方だ。それだけは信用してもらっていい』
『私も。私たちが澪ちゃんに何をしてあげられるかわからないけど・・・』
そのときの私は何を思っていたのかわかりませんでした。
ただ、気がついたときは口が動いていて言葉を発したあとでした。


「・・・ありがとう」




それから3年が経ちました。私は6歳。姫ちゃんは3歳になってました。
姫ちゃんのほうがひと段落付いたということもあって、多少なりと私にもかまってくれるようになりました。
でもお父さんたちはやっぱり姫ちゃんのほうを見ていたのでした。
なぜなのかはよくわかりません。ただ、私は相変わらず一人の時間が多かったという事実は変わってませんでした・・・
そんなときにいつもそばにいてくれたのは、加奈さんでした。平蔵さんは最近腰痛が激しいとかで療養中だそうです。
加奈さんは、私のどんな話でも真剣に聞いてくれます。
小さなことから大きなことまで、数え切れないほどの話を聞いてもらいました。
でも加奈さんは、私の話を聞き終わるといつも深いため息をつくのです。
私の話がつまらないのかな・・?と思ったこともありますが、そうではないようなのです。
結局加奈さんがどのような心情でわたしの話を聞いていたのかはわかりませんでした。








2.

その年の夏のことでした。
夜中にふと目が覚めて、なにか飲み物がほしいので冷蔵庫のある台所に行こうと思いました。
ふと見ると、お父さんとお母さんの部屋はまだ電気が灯ってました。
詳しい時間まではわからないですが、こんな夜遅くまで起きているのは珍しいことです。
『・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・』
お父さんたちの話し声です。何て言ってるのかよく聞き取れません。
ドアに耳を近づけて見てみることに。
『・・・姫子は・・・のかな?』
『ええ。少し・・・・だけど、・・・・・は十分だと思うわ』
姫ちゃんの話題をしているようでした。何が十分なんだろう・・・?
『うむ、流石だな。・・・・・・・もあったものよ』
『そうですね』
『・・・・・・で、澪の方は・・・・』
あ、私の話題が出てきた。
『澪は・・・・・だけど、・・・・・・だからねぇ・・・』
『やはり・・・・・・・は難しいということか・・』
?!
・・・・どういうことなの?
『具体的には・・・・・・・だと思うんだけど、・・・・・・・という致命的な要素があるのよ・・・』
『やっぱり・・・・・は無理だと・・・か』
『そういう意味では姫子のほうが・・・・・・・・・・だと思うわ』
『うむ、じゃあ・・・・・・で姫子は任せたぞ』

それを聞いた瞬間、涙で前が見えなくなりました。
そして、無意識のうちに家を飛び出し、全力で走ってました。
「・・・お父さんたちは私を必要としていない・・・・?」
そういうことが脳内によぎったのでした。
暗い森の中、よくわからないまま直進してたのです。
その感情は憎悪?劣等感?なにが何なのかよくわかりません。
ただ、何かに支配されたかのごとく、無我夢中だったことは覚えてます。
そして意識が途切れました・・・・。どこからともなく聞こえてきた声とともに・・・



『力が欲しいか?ならば汝に与えてやろう・・・』




『・・・ちゃん、澪ちゃん大丈夫?!』
あれ、なんで私は寝てたんだろう・・・
確か私は無我夢中で家を飛び出て、そのあと・・・・
『澪、起きるんだ!』
そしてどこかで聞いたような声・・・と思って目を開けます。
そこには今までにない険しい顔つきをした加奈さんと平蔵さんが。
『そっちは大丈夫か?!』
『く・・・手ごわい・・・』
『ぐああああああああああっ!!』
いつもとは何かが違う。それを把握した私は体を起こしかけます。
『澪ちゃん、大丈夫だった?!』
「・・・これは?」
『悪霊が発生したんだ!なんでも30年前に封じ込めた強力な悪霊の封印が解けたらしい!』
『しかもその悪霊の霊気に呼応して、小悪霊たちもいっせいに目覚めたの。今みんなで退治にあたってるけど、数が並半端じゃないの』
『あまりに数が多くてかなり劣勢状況らしい。』
『そしたら澪ちゃんのお父さんに会いまして・・・』
『それで親御さんからいつの間にか消えてた澪を探すよう頼まれて探してたんだ!』
『今までこんなことなかったのに・・・。澪ちゃんは何か心当たりがある?』
・・・その質問に答えることはできなかった。
数十メートル先には阿鼻叫喚の世界が繰り広げられている中、言うことができなかったのです。



・・・私が原因です・・・と



気を失う寸前、何者かに声をかけられたような気がしました。
私の無意識上の声なので、私がなんと言ったかは覚えてませんが、
目の前の惨劇。そして私の体から感じる強い霊力の跡・・・
これを私が原因でなくてなんとすればいいんでしょう・・・


私の暗い表情から何かを感じとったのか、平蔵さんは言います。
『・・大丈夫だ。澪は俺が守ってみせる。たとえどんなことがあってもな』
「・・・・でも」
『なあに、気にすることはない。それが戦士である我が家系の役目だ。』
『・・ええ。誰かが悪いわけじゃない・・・。これもまた私たちに与えられた試練なんだから・・・』
『試練というにはちょっと障壁高すぎやしないか?』
『・・・試練は大きいものを乗り越えてこそのものだと思いません?』
『ちげえねえぜ。ははははは』
平蔵さんの笑い声が響きます。でも私は心の奥底でふと思ったのです。



・・このまま平蔵さんたちと一生会えないような気がしたのです・・・



『よし、行くか加奈。』
『・・・はい』
「待って・・・・私も行く・・・・」
心の不安が、それを言葉にしました。
平蔵さんや加奈さんと別れたくない・・・その想いでいっぱいでした。
『・・・澪、お前はここにいろ。大丈夫だ。お前の霊力なら低級の霊なんぞに襲われることはない。』
『ええ。ここは大人たる私たちに任せてください』
「・・・でも・・・」
行っちゃ嫌だ・・・・と心で言うも、悲しみにつぶされて声になりませんでした。
『約束する。俺は必ず澪の元に返ってくる。信用してもらってかまわない』
『私たちは生き残ります。・・・大丈夫ですよ。任せてください』
私は無言でうなづきました。でも平蔵さんや加奈さんといえどこの状況を覆すことはできないことは当時の私でもわかりました。
それほど状況が悪かったということなのです・・・
涙目で前が見えないまま平蔵さんたちを見送りました。
そのとき、声が小さくてよく聞き取れませんでしたが、平蔵さんはこう声を漏らしました。



『・・・・澪、今までありがとう・・・・』



それが私の聞いた、平蔵さんの最後の言葉でした。






『澪!そこにいたのね!』
どれほどのときが過ぎたかわかりません。後ろからお母さんの声が。
『大丈夫だったか?!』
お父さんもいます。そしてその後ろにはまだ3歳の姫ちゃんもいます。
『お姉ちゃん・・・怖いよぉ・・・』
姫ちゃんも涙目でした。お父さんたちがどのようにしてここにきたのか想像に難くありませんでした。
『まさか澪の力がこれだけ強大とは・・・。予想外だ』
『・・私も予想つきませんでした。私の責任です・・・』
『いや、お前だけが原因じゃない・・』
私にはお父さんたちが何を言ってるのかよくわかりません。
ただ、私の胸にはおびえている姫ちゃんを抱いてあげているだけでした・・・
『澪、お父さんたちはこれから悪い霊を退治しに行く。お前たちをこの危険な森の中に残しては置けない』
『私の力を使って、ふもとの村へテレポートさせます。そこには私の妹がいるはずです』
「お父さんたち・・・行っちゃうの・・・?」
私も不安でどうしたらいいのかわかりません。
何でもいいから声に出したかった・・・不安を少しでも取り除こうとした行為だったのかもしれません。
『気にすることはない。お父さんたちもすぐに行くさ。悪い霊を退治したらな』
『いい?澪はお姉さんなんだから、姫子のこと、頼んだわよ』
そう言うものの、すでに周りには数十の悪霊が見えます。
お父さんたちでもどうにかなるのか不安でした。
『それでは、テレポートします。澪・・・姫子・・・待っててね・・・』
そういってお母さんは呪文の詠唱を始めました。
詠唱をしてる間に、悪霊たちは一歩づつ距離を近づけています。
『澪・・・お前に言いたいことがある』
「・・・・・何?」
『お前には強大な力が眠っている。お父さんたちでも抑えきれないくらいにね・・・』
「・・・うん」
『だからお父さんたちは手付かず状態だった。霊気や魔力が呼応して爆発しないようにするにはどうしたらいいのかと・・・
そんなときに姫子が生まれた。姫子もかなり強大な力を持っているが、お前ほどではない。
だからお父さんたちは姫子を育てて、澪の力を制御できるようにしようと思ってたんだ・・・
だが、まさかこんな結果になるとは思わなかった・・・・』
「・・・・・・・・・・」
言葉の内容がよくわからなかった。だけど心の底にはそう記憶に残っている。
『だから、お父さんたちは澪のことを忘れてたわけじゃない・・・それだけはわかってほしい・・・』
私に語りかけるように話してくれました。
そしてお母さんは、詠唱が終わったのか、体からすさまじい魔力を発しています。
周りの悪霊たちが少し驚いているようにも見えました。
『・・・・・いきますよ。<テレポート>!』
そう叫んだ瞬間、私と姫ちゃんは白く淡い光に包まれます。
目の前が真っ白になり、お父さんたちからどんどん離れていく感じがしました。
視界からお父さんたちが消える瞬間、お母さんは涙声でこういいました。




『澪・・・姫子・・・・ごめんね・・・・・・』






3.

気がついたら私たちはふもとの村にいました。
いま自分がどのような状況に置かれているのかよくわからなかったですが、確実にわかることが三つ。
ひとつは、今自分たちは安全なところにいること・・・ひとつは、姫ちゃんが横で寝てること。
そして残りのひとつは、目の前に見覚えのある家があることです・・・
一度行ったことがあるからなんとなく覚えてましたが、伯母さんの家のようでした。
そして、お母さんやお父さんのことを思い出し、ふと涙がでました。


「お父さん・・・・お母さん・・・・」



伯母さんは私たちを快く迎え入れてくれました。
伯母さんには子供がいなかったため、私たちを子供のように大事に思ってくれたのでした。
村の小学校にも行くようになって、今までと生活は一変しましたが、それはそれでなかなか楽しい生活でした。
この村は、魔法がすこしですが使える人たちもなんにんかいて、ひっそりと住んでいます。
かくいう伯母さんも、お母さんほどではありませんが、人望ある魔導師だったのです。
時折お父さんやお母さん、平蔵さんや加奈さんのことを思い出すと心が震えてしまうこともあった・・・
それでも、この生活がやがて日常となり、当たり前になっていきました。





・・・あの事件が起こるまでは・・・





私は9歳になりました。外は桜が咲いていて、まさに春といった感じ。
私は四年生になってました。この小学校は、一学年に1クラス。
つまり、ひとつのクラスが一学年全員なのです。
そんな中、私はクラスの優等生として見られてました。何回か表彰もされました。
私自身、そんなに頭がいいとは思ってませんが、周りから見ればそう見えるらしいのです。
そしてクラスの中でもうまくなじめた感じだった。

『ほら、また星山が本を見てるー』
『さすがは優等生ねー。私たちとは出来がちがうわねぇー』
「・・・そんなことはないわ。」
『またまたー。澪のおかげで男子にも大きな顔ができるわ』
『あ、そうそう澪。昨日の宿題なんだけど、ここどうすればいい?』
『それそれ!私もそれを聞きに来たんだよ』
『あんた最初から澪に聞くつもりで昨日遊んでたんじゃないでしょうね?』
『(ギク)い、いやあそんなことないわよー。おほほほ』
『あはははは』
「・・・・くす」



毎日が楽しかった。こんな日常がずっと続けばいいと思ってた。
だけど日常というものは永遠に続かない・・・。そう、いつかは壊れるもの・・・





6月も半ばくらいのことでした。
『あ、星山さん。配布物のプリントを教室にもってってほしいから職員室に来て』
と先生から言われたので、校内を歩いてました。
季節は夏近く。紫陽花の咲く6月といったところでしょうか。
雨上がりのあとなので、紫陽花の雫から放つ光は神秘的にも思えました。
今日はいい天気になりそう・・・そう思った時だった・・・。


『なにをするんじゃこのガキが!!』
『ご、ごめんなさいです!』
『ごめんで済めばケーサツはいらねーんだよ。ああ?』


廊下に響く大声。そして大声の中に混じるひとつの聞き覚えのある声。
私はそっちのほうに向かいました。
見ると、柄の悪そうな男の人たち5名、少しはなれたところでどうしていいのかわからずオドオドしてる新一年生だとおぼしき女の子が3名。
・・そして、その大男たちに絡まれているのは、今年入学したばかりの姫ちゃんなのでした・・・

「・・・どうしたの?」
とりあえず状況を知るため、近くにいた女の子に声をかけます。
『あ・・・えっと・・・廊下を歩いてたら、姫子ちゃんがあの人たちとぶつかって・・・それで・・・』
なるほど、状況は読めた。
しかも目の前にいる大男たち・・・見覚えがある・・・
校内ではかなり有名だからです。それは・・・


『とりあえずどう落とし前つけてくれるんだ?ああ?』
『あうう・・・』
『なんかいったらどうなんだ!!』
『うう・・・・・』


もう我慢できない。姫ちゃんと大男たちの間に割って入った。
『・・お姉ちゃん・・・?』
「姫ちゃん・・・もう大丈夫よ・・・」
そういって、姫ちゃんを安心させようと思った。そして、
「・・・あなたたち、姫ちゃんに何か御用ですか・・・?」
『なんだてめえは!なにしに来た!!』
「・・それはこっちの台詞よ・・・『比留間党』の皆さん・・・」
比留間党とは、学内の不良たちが集まる集団のこと。主に6年生で構成されているので、下級生はこの比留間党にインネンつけられて
泣き寝入りしている子たちが後を耐えない。
そして、その長が比留間というから比留間党。
この比留間、実は裏の世界の、いわゆるヤの付く自由業の息子で、
なんでも母親が昔ここの小学校を卒業したことから、ここに無理やり入らされたという危険人物。
6年生だというのに身長がすでに160を超す大男。小学生とは思えません。
『そういう貴様は4年生の星山!』
『今日こそ借りを返してやるぜ・・・』
そして私はこの集団に縁がある。1ヶ月くらい前に、花壇を踏み荒らしてた連中を少しこらしめてあげたのです。
具体的には火属性下級魔法ファイヤーを2発ほど。
そのときから私はブラックリスト入りになってたようです。
「・・・私が聞きたいのはひとつ・・・姫ちゃんになにをしようとしたの・・・?」
と、集団の先頭に立つ大男・・・比留間本人にそう聞きました。
『なんだチビ。てめえも殴られたいのか?』
「・・・私の質問を答えて。なにをしようとしたの?」
そのときの私の身長は108cm。具体的には一年生よりもかなり低いくらい。
対する比留間は162cm。身長差は頭一個分どころじゃありません。親と子ぐらいの身長差があります。
『・・・ケッ!そのクソガキが俺にぶつかってきたんだよ。だから少しお仕置きをしてやろうと思ってな・・・』
なんとも筋が通らない話である。女の子たちの話を察するに、要はちょっとぶつかったくらいで怪我とかはなく、
見た感じ服も汚れていないので、こけたという訳でもなさそうである。
・・となれば理由は一つ。ただのふっかけ・・・
「・・それじゃ理由にならない。そんなに下級生苛めてなにが楽しいの・・・?」
鋭くそう言い放った。姫ちゃんを目の前の集団の娯楽にされてはたまらないと思ったからである。
『なんだ?やるのか?』
『反抗的だなこの女!』
『遠慮なくやってしまおうぜ!』
そういった矢先、一人の男から一条の閃光が放たれた。
「・・・?!」
私は手のひらから結界を張って、放たれた光線を少し角度を変えるような感じで、外にはじき返した。
「・・・質問にも答えず即刻魔法攻撃・・・ずいぶんな話ね・・・」
『うるせえ!今日こそ貴様を静めて俺たちでかわいがってやるぜゲッヘッへ』
もはや何を言っても無駄である。私は後ろで私の陰に隠れてる姫ちゃんに向かって、
「・・姫ちゃん・・・少し後ろに下がってて・・・」
『・・・うん』
状況がよくわからないように見えたけど、うなづいて即行動してくれた。
とりあえず姫ちゃんと大男たちの距離を離すことは成功・・・
・・・さて



次の魔法を放ってきたのは、最初に電撃魔法を放ったすぐ横の男である。
『今日こそ貴様の余裕の面を潰してやるぜ!食らえいっ!!』
そういって水属性下級魔法アイスを放った。
「・・・ファイヤー・・」
私から放たれた炎の塊は、氷の塊とぶつかって、相殺して消えた。
『なら今度は俺が!<電光ライトニング>!!』
バチバチバチ・・・・
一条の雷が放たれた。だけど相手は小学生。お母さんや伯母さんに比べればたいしたものでもありませんでした。
「・・・マジックシールド・・・」
一条の電撃は、私の張った結界に衝突した瞬間、はじけてなくなりました。
『ぬお?!』
『こいつ強ぇ・・・』
2発の魔法を軽く弾いたことで、相手に少し同様の様子が伺えました。
この期を逃してはならない・・・
「・・それでは、こちらからいかせてもらうわ・・・」
脅し程度の攻撃力に引き下げて、その魔法を解き放つ。
「・・・<電磁の空間スパークウェーブ>」
『うがあああああああああああああああああああああああああああ!!!』
魔力の中心から電気の波を起こし、その波が相手を飲み込む。
とはいっても、かなり攻撃力を抑えたのでまだ立てるだけの体力はあるみたいだけど。
『はぁ・・・はぁ・・・』
『はぁ・・・はぁ・・・』
かなり抑えたといっても、雷属性魔法の中では中級に近いクラスの魔法。
直弾して息は荒いけど、体力だけは高い集団。並みのことじゃくたばりません。
「・・どうするの・・・?これ以上抵抗するなら次は本気ですよ・・・?」
脅すようにそう言った。これ以上の争いは無駄だと思ったし、なにより騒ぎをあまり大きくしたくない。
なにしろここは校内である。先生が来れば騒ぎがますます大きくなるだけ。それだけは避けないと・・・
でも比留間の目はまだ死んでいなかった。
『・・・ぐふふ・・・ならば!これでも食らえ!!』
比留間の手に魔力が集まる。
・・この負の力・・・闇属性魔法・・・?
しかもかなり巨大・・・!!
『・・・ふふ・・・いくぞ!<漆黒の刃ジャガーノート>ーー!!』
?!
上級魔法・・・?
比留間の手に魔力が解き放たれ、それは数枚の闇の刃となって勢いよくこっちに向かってきた。
こんなものが直弾したらただではすまない。私はそれを防御しようとした時・・・




グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!




・・・私を無視した・・・私がターゲットじゃない・・・?!
そう思った時には既に時遅かった。暗黒の魔力エネルギーが狙ったその先は・・・


ドコオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

『きゃああああああああああああああああっ!!!』
「姫ちゃん!」


闇のエネルギーは爆発して、姫ちゃんの叫び声とともに轟音を上げた。
比留間はこともあろうか、後ろにいた姫ちゃんを狙ったのた。
大の大人が被弾してもただでは済まない上級魔法を、まだ魔力が完全な状態になってない6歳の女の子が被弾したのだ。
結界も何もはれずに直弾した姫ちゃんは、煙が晴れてからその姿が確認できた。
そして私は迷うことなく姫ちゃんのところに向かった。
「・・姫ちゃん、大丈夫?姫ちゃん・・!」
『う・・・・・・おねえ・・・ちゃん・・・・・・』
そういってぐたりとなった。姫ちゃんの生命力が生死の狭間をさまよっているのが感じられた。
回復魔法を使えない私はどうしたらいいのかわからず、何も出来なかった自分に絶望感を感じたのみでした。
次に沸き起こったのが、怒りと憎悪の負の感情のみだった。
怒りを抑えながらも、鋭く、そして激しい憎悪を含めた声で相手に向かう。
「・・・あなたたちは・・・自分が何をしたのかわかってるの・・・?何故部外者である姫ちゃんを狙ったの・・・?」
しかし比留間たちは物怖じするどころかむしろ笑い出し、
『がっはっは、まず俺たちに喧嘩を売ってきたのはそのガキだ。どっちにせよそいつは攻撃するつもりだったんだよ!』
『がはははははははは』
比留間に続いて笑い出す一同。場も考えずに上級魔法を放ち、しかも他人の命の危機を笑い飛ばした彼らに同情の余地は一切無し。
私は静かな声で後ろの一年生の娘たちにこう警告した。
「・・・今から3分間でみんなを連れて遠い場所へ逃げて・・・」
『・・・え?』
惨劇を目のあたりにした女の子たちは気が動転しててどうしたら良いのか判らない様子。
・・・なら、
「・・いいから早く・・!大声でこう叫んで。『テレポートでどこか遠いところへ逃げて!』と・・・」
『は、はい!』
私の脅しに似た警告が聞いたのか、女の子たちは教室の方へ向かって一斉に叫びだした。
・・とりあえずこれで他の人に被害は出さずに済む・・・
『あ?どうする気だお前は?悪いが俺たちはお前も逃がさないぜ。』
女の子たちの変動に気付いたのか、比留間は私にこう突きつけた。
「・・・あなたたち・・・許さない・・・」
もはや感情の制御がつかなくなった私は、怒りを全力で前方に向ける。
『許さない?何が?それはこっちのセリフだ。お前も妹と同じ運命にあってもらうぜ!』
あくまで強気の姿勢を崩さない、憎しみの対象。
そういってる間にもどんどん校内から魔力の反応が一つ、また一つと消えていったのがわかった。
一年生の子たちの悲痛な叫びが効いたのだろう。
そして、まもなく足元にいる姫ちゃん、前方の人影以外に魔力の気配がなくなった。
「・・・これで遠慮なくいかせてもらうわ・・・」
『何を生意気な!食らえ!<漆黒の刃>!!』
姫ちゃんにも放った闇の刃はうねりをたてて私のほうに向かってきた。
私は杖を取り出し、それを魔法の方に向けた。そして魔法を一つ唱えた。



チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!



『がっはっはっはっはっは!してやったり!!』
『はははははははははは!!』
命の重さを微塵にも感じない奴らの笑いが周囲を支配する。
そして、その笑いが焦りに変わるまで10秒とかからなかった。
『・・・な、なに?!』
『そ、そんな馬鹿な・・・』
『比留間さんの魔法を・・・止めただと・・・?』
煙の中から現れた私。魔法によるダメージは皆無。
そう、私が使った魔法は<魔法障壁マジックシールド>。これで相手の魔法を止めたのであった。
もちろん誰にでも止められるわけではなく、相手の魔力を上回ってないと結界自身が破れてしまう。
だけど、私にも何故か判らなかったが、上級魔法を止められるほどの魔力が今はあったのでした。
相手の焦りは並ではなかった。なにしろ親玉の全力の魔法でノーダメージなのだから。
「・・・それで終わり・・?」」
比留間が1歩後ずさった。それと同時に逃げようとする後ろの集団。
「・・<低速(ディレイ)・・・>」
動きが鈍くなる魔法をかけられた集団は、体のバランスを崩して倒れこむ。
『ひ、ひい・・・』
比留間以外は全員逃げ腰状態の模様。だけど私は逃がさない。
感情に振り回された行動はいけないと、昔加奈さんから教えられた。
・・だけど、今はもはや制御できる段階ではなかったのでした。
「・・・・・・・お母さん・・・」
その時一瞬、昔の私とお母さんがふと見えたような気がした。



『澪、これはかの昔失われたといわれる大魔法なの。あまりの強さに制御できるものはいなくて、最終的には誰も使えなくなったそうよ』
「・・・お母さんも・・?」
『もちろん私にも。まあ、魔法の知識として覚えておくくらいは大丈夫でしょう』
「・・・知識・・・?」
『そう、知識。大丈夫よ、覚えただけで発動することはないんだから』



「・・・お母さん・・・その魔法・・・使わせてもらうわ・・・」
使用不能といわれた古代の禁呪文。でも今なら発動出来そうな気がする。
もちろん制御はできない。だけど、今はそれを考えるだけの冷静さはなかった。
そして、あまりの強大な魔力に、怯える者・・叫び出す者・・そして中には失禁した者も・・・
魔法を使える人でこの集中した魔力に危機感を感じないはずがない。それだけの魔力が私の元に集まっていたのである。
・・そして、詠唱を終えた私の体から、一条の光が天に昇って、それは一点に集まって光の珠となり、空中で動きを止めた。
私が魔法を放った瞬間、それは無数の光線となって、光属性最強といわれる禁呪文は、
この世のものとは思えない轟音を立てて勢いよく落下を始めた。




「・・・・<聖なる光の流星スターダストレイン>・・・・」




一瞬にして周囲は白くなり、阿鼻叫喚の世界となった。そしてその中で、私自身も光に飲み込まれ、意識を失った・・・
そのとき、お父さん、お母さん、そして昔の姫ちゃんと私が幸せに笑ってる姿が見えたような気がした・・・




『澪は将来なにになりたいのかな?』
「・・・わからない・・・」
『あなた、子供にそんなことを聞くのは早いんじゃない?』
『そうかなぁ。じゃあ姫子はなにになりたいのかな?』
『ひめはおねえちゃんといっしょにいるの!』
『澪と?一緒になってそれからどうするんだ?』
『おねえちゃんはひめがまもってあげるです!だからおねえちゃんとずっといっしょにいるの!』





姫ちゃん・・・・






4.

ここはどこ・・・?


確かに私はあの光に・・・


私は確かに夢を見た・・・



そして私は気がついた。私の視界にまず入ったのは・・・木の見慣れない天井だった。
ここは・・・。叔母さんの家でもなく、昔の私たちの家でもなく・・・
そんなことを考えながらも、窓から差してきた日光に眩しさを感じた
チュンチュン・・・・
よくわからないが、どのくらい眠っていたのだろう。
それにここは・・・
一体誰が私を・・・



『あ、おねえちゃん!!』



姉・・・・この声・・・姫ちゃん・・・
・・・姫ちゃん?!


私は声のした方に顔を向けた。
そこには見覚えのある、紅くて長い髪の少女がそこにいた。
そして私は思わず声を上げた。


「・・・姫ちゃん・・・!」
『おねえちゃん・・・・!』



私も姫ちゃんもお互いに「生きてたんだね・・・」という気持ちで一杯でした。
そしてその衝動を抑えきれず、抱きついてくる姫ちゃん。
『おねえちゃん・・・だいじょうぶだったんだね・・・もうおきないとおもってたですよ・・・』
「姫ちゃん・・・」



ひと段落落ち着いたあと、その後のいきさつを、そして何故今このような状況なのかを姫ちゃんに説明してもらった。
まず私たちを助けてくれたのは、叔母さんだったということ。
私の強大な魔力に危機を感じて魔力の中心であった場所に飛んでみたら私と姫ちゃんが横たわっていたらしい。
姫ちゃんは叔母さんの回復魔法で一命をとりとめたものの、魔力を使い果たしていた私は回復できず、
ただ自然回復を待つしか処置がなかったということらしい。
また、騒動の件は比留間たちが魔力を制御しきれずに自爆したということになっていた。
全員死亡ということで処置されたとのこと。学校はほぼ全壊状態で、立て直さないと使い物にならないとか。
・・おそらくこれらは叔母さんの努力によるものでしょう。何故なら比留間は光属性魔法を使えなかったのだから。
そして私たちは爆発の結果、死亡という扱いの行方不明ということになっているらしい。
この家は、叔母さんの別荘・・・いわば、私たちのために新しく作った家という・・・
さすがに死んでる人間を発見されたらいけないとの理由で、早急に作ったものとか。
叔母さんは私たちに二人暮しをさせることがとても悲痛だったみたいで、
『なにかあったらここに帰っておいで・・・』
と涙混じりに言っていた、と姫ちゃん。




・・・また・・自分の場所を失ってしまった・・・





私たちは別の学校に行くことになった。あくまで小さな村だったので、
別の町にいけば事件があったことすら表ざたになっていなかったが故にできたことだった。
・・だけど、そこに待ち受けていたのは、負の意味における歓迎だった・・・

生まれながらにして魔力を持つことはそうそうありえない。
魔法のあふれていたかつての学校と違って、この学校で魔力を所持しているのは「天才児」と呼ばれるとか。
そして生まれながらにして魔力を持っていた私は、嫉妬と差別の的となったのでした。
ついた称号が『悪魔の子』『青髪の死神』・・・
もちろん姫ちゃんもその例外ではなく、いじめの対象になっていたのでした。
1ヶ月ぐらいで私たちはそこに行かなくなったのでした。
私だけならともかく、姫ちゃんがいじめられていることは私には耐えられなかったのだから・・・
その後も、石を近所の人から投げられるなど、苦痛の日々が続いた。
災害をもたらす者、として周りの人たちから罵りを受けたのでした。
そしてそのたびに姫ちゃんは涙目になって、私にすがるのでした。
『おねえちゃん・・・』



・・私が日常を壊してしまった・・・



・・また私のせいで姫ちゃんまで・・・



・・・一体何回やれば私は・・・



・・・私は一体どうしたらいいの・・・?




私は自分の魔力を、運命を、そして存在を呪った。
こんな力ならないほうがいい・・・と・・・



そして私は一つの決心をした。








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